泣き虫パンダと慰め役のセバスチャン

不器用な新人社会人が世の中を生き抜くための処世術

振り返り美人

江戸時代の有名な画家の一人、菱川師宣

この、菱川師宣の代表作に、【見返り美人図】というものがあります。

 


紅の生地の着物を着た女の人が、歩いてる途中で後方に視線を送るというこの作品ですが、ポージングと言い、着物の描き方といい、絶妙な美しさと上品さを感じとることができます。

 


この見返りポーズというのは、俳諧に詠まれるほどの人気ポーズだったようですが、確かに、振り向いた姿が美人だったら、同性であろうと異性であろうとドキッとしてしまう気がします。

 


振り向いた時に、シャンプーの匂いなり、洗濯物の柔軟剤のいい匂いなんてものが、フワッと鼻腔をついてこようものなら、速攻で惚れてしまいそうなものです。

 


今日はそんな振り返り美人に関するお話です。

 

*


本日の仕事を終えて帰路についてるパンダの表情はいつもより冴えていなかった。

がっくり肩を落として暗い表情でとぼとぼ歩く。

「またなんか言われた?」

セバスチャンの問いかけにこくりと頷いたパンダは今日受けた先輩からの指摘について話し始めた。

どうやら、先輩から頼まれた資料を次の日に提出したはいいものの、提出した資料をみて開口一番『早ければいいってものじゃない』と言われたところから話は始まった。

「全然出来てないってさ。文章も主語述語がめちゃくちゃで意味不明だし、説明不足で何言ってるかわからないんだって。あ、誤字脱字もあるから直してって。参考書見たり、信憑性のあるサイトの情報を活用したから大丈夫と思ってたけどここまでけちょんけちょんに言われると思ってなかったなあ。」

なかなかの言われようである。

「んー、手厳しいわね。そんなに出来の悪いものには思えなかったけど…。それにしても、昨日頑張って作っただけにショックだったでしょう?」

はあ、とため息で返すパンダ。

そんな姿を見てセバスチャンはこんなことを言う。

「あなたは、振り返り美人になるべきね。」

「それ、美人になる必要ある?」

「大アリね。ちょっと追い討ちをかけるようで悪いけど、あなたが意気込んでる時は目の前のことに集中しすぎ、急いでる時は早く終わらせたいから前にしか進めない、終わって達成した時はこれで大丈夫って安心しちゃうから、どこにも見返すきっかけがないでしょ?だから、振り返り美人。『私は振り返り美人だから必ず後ろを振り返る』って自分に言い聞かせるの。何か仕事が完了した時、片付けが終わった時、安心する前に一回でいいから後ろを振り返る。そしたら自分ができてなかったところがすぐ目につくから、言われなくてもいいい嫌味な指摘も回避できるわ。」

 

*


振り返り美人というのは振り返る時の所作が美しい人のことを言います。

 


だとすれば、自分のしたことに対しても振り返ってより美しく仕上げることができる人もある意味振り返り美人と言ってもいいのではないでしょうか。

 


言われたことを一発でクリアする、と言うのはなかなか難しいものです。

ですから、何度も振り返ってより美しい仕事を目指すことにします。